要点まとめ
「週あたりの指導可能枠・1回あたりの実質コスト・受講生の現実的な受講ペース」から提供キャパシティを逆算し、そのうえで12回か24回かを決めます。
12回と24回の違いは回数ではなく約束期間です。まず12回で相性を確かめ、固定枠を確保できると判断できてから24回を検討します。
本記事の目次
パーソナルトレーニングの回数券(パッケージコース)は、どう設計すればいいのでしょうか? 適切なサイズは1回あたりの安さでは決まりません。週あたりの指導可能枠、1回あたりの実質コスト、受講生の現実的な受講ペースから提供キャパシティを逆算し、欠席と振替の予備枠を残したうえで12回か24回かを決めます。
回数券の最適なサイズとは、「回数が多いほどお得」なプランではなく、「約束した期限内に無理なく高品質なレッスンを提供しきれる」プランのことです。
24回コースを1件売ることは、半年間で24コマ分の指導枠を提供し続ける責任を負うことです。キャパシティを計算せずに売ると、受講生が予約できない、トレーナーが休めない、未消化レッスンがたまる悪循環に陥ります。
コースを設計する前に押さえておきたい5つの基本用語
プラン設計と消化管理で混乱しやすい5つの用語を整理します。
- 提供キャパシティ(Fulfillment Capacity)
準備、移動、事務、休息を除いて、月に安定して提供できる上限回数。
- 1回あたりの損益分岐点(Minimum Breakeven per Session)
1回あたりの直接コスト、按分した月間固定費、目標手取り額の合計。
- 有償レッスン(Paid Sessions)
受講生が対価を支払って購入した回数。中途解約や返金はこれが基準。
- 特典レッスン(Complimentary Sessions)
追加料金はないが、時間と場所のコストは有償分と同じ。分けて記録しないと実質単価が下がります。
- 未消化レッスン(Unfulfilled Lessons)
入金済みで未指導の残り回数。返すべき役務負債で、確定利益ではありません。
パーソナル回数券の設計は「4つの数字」から始める
長く続くコースには、次の4つの数字を先に確定させます。
- 週あたりの指導可能枠
休息、食事、予習、予約管理、移動を除いて指導に充てられる週のコマ数。
- 1回あたりのサービスコスト
場所代、システム手数料、交通費、前後の準備時間、直前キャンセルの空き枠リスク。
- 受講生の想定受講ペース
仕事と生活リズムから見た現実的な頻度。「毎週3回通える」前提では組みません。
- プランの期限と予備枠(バッファー)
受講生の欠席や出張、連休の休館、トレーナーの休暇に備えて組み込む猶予の週数。
この4つは「何回セットにするか」より先に決めます。
まずは月間の指導上限を計算する:提供キャパシティの計算式
まず、月に何回まで提供できるかを出します。
【月間の最大指導可能回数】 = 週あたりの指導可能枠 × 4週 × 想定稼働率
試算例(シミュレーションであり相場ではありません)。移動と事務を除いて週に最大25コマ確保でき、予定変更や時間帯のミスマッチを見込んで稼働率は70%、1か月を4週とします。
25コマ × 4週 × 70% = 70回
この70回は質を保てる限界値で、保証収入ではありません。継続生やグループレッスン、別の仕事で埋まっている固定枠を差し引いた残りが、新規受講生のキャパシティです。
12回と24回は「サイズ」の違いではなく「約束期間」の違い
「12回=お試し」「24回=お得な大型コース」と捉え、単価を下げて24回を売り込む設計はよく見かけます。しかし現場で異なるのは、約束期間とスケジュール負担です。
| プラン | 受講生との約束期間 | トレーナーに求められるキャパシティ | 適した受講生のタイプ | リスクと注意点 |
|---|---|---|---|---|
| パーソナル 12回 | 2〜3か月間集中して取り組み、リズムと相性を確認する期間 | 短期間でフォーム習得と信頼関係を築く。日程調整の自由度が高い | 初めての受講生、目標が固まりきっていない方、シフト勤務や出張が多い方 | 期間が短いため、8〜10回目あたりで振り返りと次回提案をしないと受講間隔が空きやすい |
| パーソナル 24回 | 半年以上にわたり、生活習慣や身体づくりを長期的に変えていく期間 | 毎週の特定枠を長期間確保し、振替や欠席用の予備枠を多めに用意する必要がある | 信頼関係があり、目標が明確で、毎週決まった時間に通える継続生 | 一度に多く売りすぎると、未消化レッスンで先々の枠が長期間ロックされ、予約が逼迫する |
重要なのは優劣ではなく、回数が受講生の通えるペース、空き枠、無理のない有効期限と噛み合うかです。
12回コースの組み立て方:最初のサイクルを「振り返り可能な期間」にする
12回は新しい受講生の「最初の区切り」に向く長さです。カウンセリングからフォーム習得、負荷への適応、初期の成果実感まで一通り通過でき、通いやすさと身体の反応も見極められます。
12回プランに明記すべき8つの項目
トラブルを防ぐため、コース案内と利用規約には最低限この8項目を書きます。
- サービス内容
1回の指導時間、内容、時間外のメニュー作成や質問対応の有無。
- 有効期限
初回受講日と購入日のどちらから起算し、最終日はいつか。
- 予約方法
何日前までに、どの時間帯を、どの手段で予約完了とするか。
- キャンセルと日時変更
双方がレッスン開始の何時間前までに連絡するか。
- 無断欠席や遅刻の扱い
何分の遅刻で消化扱いか、ノーショーは1回分消化か。
- トレーナー側の都合による休講時
有効期限の延長、代講、振替のどれで対応するか。
- 支払いと中途解約・返金
支払い方法と支払期日、中途解約時の返金計算式と事務手数料。
- 記録と残回数の確認方法
受講日・指導内容・消化回数・残回数をどう相互確認するか。
12回コースの有効期限はどう設定する?
有効期限を「3か月(約12週)」とぴったりに設定すると、週1回ペースでは余裕がありません。12回こなすには最短12週かかるため、風邪や急な出張、年末年始の休館が1回あるだけで期限切れです。週1回ペースなら2〜4週間の予備期間(バッファー)を持たせ、有効期限は14〜16週間が現実的です。受講生の権利を守り、月末ごとの期限延長の交渉もなくなります。
24回コースの有効期限はどう設計する?長期枠を確保できるか確認する
24回で問題になるのは、受講生が買うかではなく、5人10人と販売した結果、半年先までの固定枠が埋まって質が落ちることです。案内する前に6つの質問に答えます。
- これから半年間、毎週の固定枠を確保できますか? 引っ越しや拠点変更の予定は?
- 受講生が休んだとき、振替枠を十分に用意できますか?
- 自分が病気や休暇の間、長期受講生の予定はどう調整しますか?
- 同じ月に3人が24回を購入したら、未消化レッスンが月間上限を超えませんか?
- その目標に24回を一気に組む必要は? 12回を2サイクルに分けるほうが集中できませんか?
- 10回目で転勤や妊娠により通えなくなった場合の返金と譲渡のルールは決まっていますか?
24回の期限と価格は「12回の2倍から大幅値引き」では決まりません。半年間の施設利用料の変動、時間枠の機会損失、振替の負荷、中途解約の返金リスクまで織り込みます。
回数券の価格設定:表示単価だけで判断しない
ありがちなミスは、近隣の表示単価を真似して回数券に値引きやおまけを付けることです。健全な価格は運営コストと1回あたりの手取り額を分解して決めます。逆算の手順はレッスン料金はどう決める?目標月収から逆算する計算法で解説しているため、本節は式と結論だけです。
まずレッスン1回あたりの最低必要回収額を計算する
割引の前に、1回あたりのコストの下限を出します。
【1回あたりの最低回収金額】 = 1回あたりの直接コスト + 按分した固定コスト + 1回あたりの目標手取り額
直接コストはレンタルジム利用料、予約や集客システムの手数料、交通費、前後15〜30分の準備と片付け、記録とメニュー調整の時間。固定コストはセミナー代、資格更新料、保険料、業務ツール費を月間の予定レッスン数で割った額。目標手取り額はコストを引いて手元に残したい報酬です。数字は自分の実際の支出で入れてください。
コース総額の内訳を正しく把握する
案内の「1回あたり〇〇円」は見せ方の数字です。社内シートと申込確認書には次を明記します。
- 受講生が実際に支払う支払総額。
- 有償レッスンと特典レッスンの回数の内訳。
- 自主トレメニュー作成や姿勢評価の有無。
- カード決済や分割払いの手数料をどちらが負担するか。
- 未消化分の振替、休会、有効期限延長、譲渡、解約返金の基準。
- レッスンごとの消化ルールと、双方の確認方法。
分解しておけば、まとまった入金に見えて実は数十時間分の労働を安売りしていた、という事態を避けられます。総額と回数から実質単価を確認するなら単価換算ツールが使えます。
回数券の募集枠を開く前に「キャパシティテスト」を行う
設計が終わっても、すぐ募集枠を開かないでください。3ステップでストレステストを行います。
ステップ1:既存の約束回数と未消化レッスンをすべて書き出す
契約中の受講生を1つの一覧にまとめます。必要な項目は次の7つです。
- 名前または管理番号。
- 契約プランと総回数。有償分と特典分は分けて記載します。
- 消化済みと残り回数。
- 有効期限。
- 週の平均受講頻度。
- 毎週の固定枠。
- 未消化の振替回数。
ステップ2:今後の週間固定稼働コマ数を集計する
全受講生の週の受講頻度を合計し、週の指導可能枠と突き合わせます(シミュレーション例)。
| 受講生名 | 契約プランと残回数 | 想定受講ペース | 毎週の確保コマ |
|---|---|---|---|
| 生徒 A | 12回プラン(残り8回) | 週2回 | 火曜夜、木曜夜 |
| 生徒 B | 24回プラン(残り18回) | 週1回 | 土曜午前 |
| 生徒 C | 12回プラン(残り4回) | 隔週1回(週0.5回) | 隔週水曜午後 |
| 生徒 D(新規検討中) | 相談中 | 週1回 | 未定 |
| 現在の固定需要合計 | - | 週3.5回 | 週3.5コマ固定済み |
先に計算した月70回は、週あたり約17.5コマです。既存の3.5コマを引くと、一見あと14コマの新規枠が見えます。
ステップ3:予備枠(バッファー)を確保し、消化不良を防ぐ
ただし14コマをすべて新規枠に充ててはいけません。指導品質を保つには 20%〜30%の調整枠(バッファー) を残し、受講生の急な振替、トレーナーの体調不良や研修、祝日や施設メンテナンスによる休館、新規受講生の初回評価、長期受講生の振り返りに充てます。
受け入れる前に単価換算ツールで既存プランの実質単価とスケジュール負荷を確認しましょう。
「当ジムの規定に準じます」で終わらせない規約とキャンセルルールの作り方
回数と料金だけを強調し、規約を「その他はトレーナーの指示に従うものとします」で済ませると、欠席や解約で言い分が食い違います。次の項目は先に文章にします。
- レッスンの内容と時間
1回の標準指導分数、前後のウォームアップやストレッチの扱い。
- 利用開始日と有効期限
いつから起算し、いつまでに使い切るか。
- 予約の受付ルール
固定枠のキープ方法、追加予約の連絡期限。
- キャンセルと変更の期限
何時間前までの連絡で振替可能か、月何回まで無料か。
- 緊急時の特例対応
急な病気や怪我で、どの証明なら当日振替を認めるか。
- トレーナー都合の休講時の補償
有効期限の延長や振替のどれで対応するか。
- 無断欠席(ノーショー)時の対応
連絡なく来られなかった場合に1回分消化とするか。
- 特典レッスンの利用条件
独自の有効期限があるか、返金時の換算対象外か。
- 休会と有効期限の延長
妊娠、手術、長期出張で休会や延長ができるか、最長何か月か。
- コースの権利譲渡
残回数を譲渡できるか、名義変更の手数料はかかるか。
- 中途解約・返金の計算式
消化済み分を有償単価でどう差し引き、手数料をいくら引くか。
- 消化状況の相互記録
レッスンごとに残回数をどう共有し確認するか。
法令遵守に関する注意点:教室やフィットネス施設の形態によっては、特定商取引法や消費者保護関連の規定(契約書の交付、クーリングオフ、中途解約時の返金上限など)が適用されます。公開前に最新のガイドラインをご確認ください。
期限内に使い切れなかった場合の進め方はレッスンの有効期限が迫ったら?30/60/90日の対処フロー、記録の項目設計はレッスン回数管理表の作り方|6つの必須項目と関数設定をご覧ください。
12回コースと24回コース、どちらを提案すべきかの判断基準
受講生の状況に応じて6つの基準で使い分けます。
- 初めての受講で、運動習慣や目標が固まっていない場合
まずは12回コース。2〜3か月で信頼関係を築き、期間終了時に振り返りと継続提案を行います。
- 出張やシフト勤務で予定が変わりやすい場合
12回コースを優先し、有効期限と振替条件にゆとりを持たせて滞留を防ぎます。
- 半年以上継続し、通う曜日と時間が固定されている場合
24回コースを検討する時期。長期的な視点で身体づくりに取り組めます。
- 新しい拠点を立ち上げたばかり、または集客拡大中の場合
12回を中心に案内し、その場所の移動時間、場所代、スケジュール管理の負担をテストします。
- 大会出場や結婚式など、中長期のゴールが決まっている場合
24回が適していますが、8回ごとに前半・中盤・後半のチェックポイントを設けることが前提です。
- 指導場所の契約や歩合条件が近々変わる可能性がある場合
3か月を超える24回などの長期契約は控え、環境変化に伴うトラブルを防ぎます。
4〜6回ごとに進捗を振り返り、長期コースに「区切り」を作る
24回でよくある失敗は、初回のカウンセリング以降、23回目まで進捗確認をせず流すことです。節目がないと12〜15回目で中だるみし、出席率が落ちたまま止まります。4〜6回ごとに10〜15分の進捗レビューを設けましょう。
- 目標の達成度確認
数値目標やフォーム改善の進み具合と、生活環境の変化に合わせた微調整。
- 受講ペースのチェック
過去1か月の受講頻度、遅れの有無、固定枠を変える必要はないか。
- 身体の感覚とメニューの調整
負荷設定、関節の違和感、疲労の残り具合が適切かのヒアリング。
- 日々の生活習慣の確認
自主トレの実施状況、食事管理、睡眠についてのアドバイス。
- 次のサイクルのテーマ共有
次の4〜6回で進むトレーニングメニューを先に伝える。
振り返りは追加セールスの場ではありません。指導プロセスを共有し、レッスンを無理なく消化してもらうための工程です。受講日や残回数を共有する方法はレッスン回数管理とは?LINE・Excel・専用アプリの比較ガイドで比較しています。
よくある質問(FAQ)
レッスンを売りすぎてパンクしないためにはどうすればいいですか?
12回と24回、どちらのプランがおすすめですか?
1回あたりのレッスン単価はどう計算すればいいですか?
回数券には値引きやおまけレッスンを付けるべきですか?
受講生が期限内にレッスンを使い切れなかった場合はどう対応すべきですか?
24回コースの場合、振り返りはどのくらいの頻度で行うべきですか?
まとめ:見栄えのいいコースを作る前に、確実にやりきれる約束を設計する
回数券の設計は「12回か24回か」の回数選びではなく、どれだけ長く安定したサービスを約束できるかの設計です。次の募集枠を告知する前に5つの質問を確認してください。
- 移動と事務を除き、指導に集中できる枠は週に何コマありますか?
- 既存の受講生だけで、すでに何コマ埋まっていますか?
- 受講生と自分の予定変更に使える予備枠は残っていますか?
- 有効期限、キャンセル、返金のルールは文書化されていますか?
- レッスンごとに残回数と記録を共有できる仕組みはありますか?
回数券を売ることは、レッスンをまとめて売ることではなく、一定期間の約束を設計することです。まずは単価換算ツールで総額・回数・実質単価を試算し、提供キャパシティを把握しましょう。


